事件番号:JP2014−0007 裁 定 申立人: (名称) エンタープライズ ホールディングス インコーポレイテッド (住所) アメリカ合衆国 ミズーリ州 63105 セント・ルイス コーポレート パーク ドライブ 600 代理人: 弁理士 鮫島 睦 弁理士 川本 真由美 弁理士 田中 陽介 弁理士 清水 正憲 登録者: (名称) Ye Li (住所) Nanjingxi Rd. 2100, Shanghai, CHINA 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下、「方針」 という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下、「規則」という。)及び日 本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に 則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「ENTERPRISERENTACAR.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「ENTERPRISERENTACAR.JP」である(以下、「本件ドメイン名」 という)。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立対象ドメイン名 本件ドメイン名がJPRSに登録されていること 本件ドメイン名は、平成26年11月13日(申立書提出日)現在において、JPRS に登録者の名義にて登録されているもの。 b 申立人 (a) 申立人が権利者である登録商標の存在 申立人は、その称呼において「エンタープライズ」を含む登録商標を日本において 複数保有している。また、「ENTERPRISE」、「ENTERPRISE RENT-A-CAR」をその外観とし ているか、あるいはそれらのいずれかを含む米国、登録商標、欧州共同体商標並びに 国際登録商標を多数保有している(甲2の11ないし31)。 (b) 申立人及び申立人の商標その他の表示の日本における周知性・著名性 (i) 申立人は、「ENTERPRISE」又は「ENTERPRISE RENT-A-CAR」の商標その他の表示(以 下、「申立人商標等表示」という。)を用いてレンタカー事業に関するサービス(以 下、「本件サービス」という。)を提供する米国法人であり、2013年度の経常収 益は約164億ドル、申立人及びその系列会社の従業員数は合計7万8000人以 上、その保有する総自動車数は約140万台であって、世界最大規模のレンタカー 会社である。 申立人がレンタカーサービスを提供しているブランドのうち、「エンタープライ ズレンタカー」は、1957年以来、北米・北欧で展開され、2014年現在、こ れらの地域に合計6500か所の拠点を有している。 申立人は、本件サービスの運営を申立人の子会社である申立外エンタープライ ズ・レンタカー・カンパニー(以下、「申立外子会社」という。)に行わせているが、 申立外子会社が登録名義人となっている日本登録商標の一部を除き、全ての商標登 録については申立人が登録名義人である。 (ii) 本件サービスは、申立人商標等表示を使用して、米国におけるJD and Power Associatesによる北米レンタカー満足度調査では1995年以来10年間で8回 に渡り第1位の評価を得ているだけでなく、2014年には、TripAdvisor America が実施したTravelor's Choiceのレンタカー部門にて第1位を獲得している。 この他、申立人商標等表示を、各国拠点において看板等に表示し、各国での本件 サービスのオンライン予約等の提供するウェブサイトでも表示しており、これらは、 申立人による完全所有事業としての本件サービスの展開に加え、各国地元企業との フランチャイズやパートナーシップといった契約関係を通じて、世界中の多数の 国々に及んでいる。登録者が在住する中国においても、申立人は2012年3月以 来、中国最大のレンタカーサービス企業とグローバル提携契約を締結し、本格的に 進出し、米国における申立人の本件サービスを提供するウェブサイトからは、中国 におけるサービスについてもアクセスできるようになっている。 日本においては、現在、申立人による本件サービスの直接的な提供はないが、本 件サービスについては、海外旅行ガイド本として定評のある「地球の歩き方」シリ ーズにおいても紹介されるだけでなく、日本人顧客を相手とする日本でのインター ネットサイトにおいて、米国他の国に赴く人々に利用しやすいレンタカーサービス として紹介されている。その結果、本件サービスを利用した日本国籍の顧客数は、 2011年からの3年間において、3957件(売上約197万ドル)から544 5件(売上訳263万ドル)に増加しているだけでなく、日本でのインターネット・ サービス・プロバイダ・アドレスからの本件サービスのページへのアクセス数も、 2006年以来、堅調に推移しているのであって、本件サービスは日本でも周知・ 著名である。 したがって、申立人商標等表示に関連する「enterpriserentacar」を含むドメイ ン名は、申立人の全世界的な事業展開にとって重要であり、各国のレジストリにお いても多数の「enterpriserentacar」を含むドメイン名の登録が、申立人名義又は 申立外子会社名義でなされており、米国はもとより、登録者が在住する中国におい ても「enterpriserentacar.cn」が登録されている。 (c) 同一又は混同を引き起こすほどの類似性 申立人は、「ENTERPRISE」及び「ENTERPRISE RENT-A-CAR」の申立人商標等表示が周 知・著名であること、また、申立人が本件サービス等について日本をはじめ各国にお いて商標登録を受けているだけでなく、当該登録商標と同一の綴りからなる 「enterpriserentacar」を付したドメイン名を他の外国において保有・使用して世界 中において本件サービスを提供しており、その存在は日本の各種旅行ガイドなどの出 版物やウェブサイトを通じて日本の取引者・需要者にも認識され、かつ利用されてい るのは前述のとおりである。並びに、当該申立人表示及び商標と、「.jp」を除く本件 ドメイン名の「enterpriserentacar」に着目すれば、申立人が申立外子会社を通じて 提供している本件サービスとして、申立人自身がオンライン予約サービスとして日本 語で提供しているもの、又はその系列会社が申立人の許諾を受けて日本で本件サービ スを提供しているものとして、レンタカー事業に対する取引者・需要者が理解するの は当然である。 よって、申立人表示の周知・著名性も考え合わせると、登録者の本件ドメイン名は、 申立人商標等表示と実質的に同一ないし混同を引き起こすほどに類似する。 (d) 権利または正当な利益のないこと 申立人は、以下の通り、同条c(i)ないし(iii)のいずれにおいても登録者については 該当性がないことを以下のように主張する。 ① 登録者は本件ドメイン名をクリック報酬型広告に使用し、本件ドメイン名にかか るURLにアクセスし表示された広告をインターネットユーザーがクリックするこ とで、登録者に広告収入が支払われることになるので、登録者による本件ドメイン 名の取得は、かかる広告収入を得ることを目的としたものである。これは、申立人 が保有する登録商標の著名性及び顧客吸引力を利用して、不当に経済的収益を得る ものに他ならない。(方針4条c(iii)非該当性) ② 本件ドメイン名にかかるURLにアクセスすると、「このドメインを購入」、「ド メインENTERPRISERENTACAR.JPは売り出し中です。」、「このページはセドのドメイン パーキングプログラムによってドメインオーナーに無料で提供されたものです。」な どと表示されるから(甲12)、登録者は本件ドメイン名を自らのために取得したも のではなく、申立人に売りつけるなどの高額転売の目的で取得の上、不当な利益を 得ることを意図している。(方針4条c(i)非該当性) ③ 登録者が「ENTERPRISERENTACAR.JP」という名称で一般に知られて認識されてい るという事実はない。(方針4条c(ii)非該当性) ④ 申立人は、登録者に対して、「ENTERPRISERENTACAR.JP」とのドメイン名又は 「ENTERPRISE」という語を含んだドメイン名の使用を許諾したことはない。 (e) 不正の目的での登録又は使用 申立人は、以下の通り、方針4条b(i)及び(iv)において、登録者は不正の目的で本 件ドメイン名を登録及び使用している(方針4条a(iv) )と主張する。 ① 登録者は本件ドメイン名をクリック報酬型広告に使用し(甲12)、本件ドメイ ン名にかかるURLにアクセスし表示された広告をインターネットユーザーがクリ ックすることで、登録者に広告収入が支払われることになるので、登録者による本 件ドメイン名の取得は、かかる広告収入を得ることを目的としたものである。これ は、申立人が保有する登録商標の著名性及び顧客吸引力を利用して、不当に収入を 得るものに他ならない。(方針4条a(iv)該当性) ② 本件ドメイン名にかかるURLにアクセスすると、「このドメインを購入」、「ド メインENTERPRISERENTACAR.JPは売り出し中です。」、「このページはセドのドメイン パーキングプログラムによってドメインオーナーに無料で提供されたものです。」な どと表示されるから(甲12)、登録者は本件ドメイン名を自らのために取得したも のではなく、申立人に売りつけるなどの高額転売の目的で取得の上、不当な利益を 得ることを意図している。(方針4条a(i)該当性) b 登録者 登録者は答弁書を提出せず、何らの主張・反論もしなかった。 5 争点及び事実認定 規則15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則について パネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基づ き、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理に従って、 裁定を下さなければならない。」 方針4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図している。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と 同一又は混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 標題の点について、登録者は何ら反論の答弁をしていないので、申立人の主張が方 針4条a(i)に該当するか否かについて、以下の通り事実を認定し、判断する。 (ア)申立人が正当な利益を有する商標及び申立人の商品等表示 申立人は、本件サービスを世界的に展開する会社である(甲3)。 申立人は、申立人商標等表示を用いて本件サービスを提供する米国法人であり、 2013年度の経常収益は約164億ドル、申立人及びその系列会社の従業員数は 合計7万8000人以上、その保有する総自動車数は訳140万台であって、世界 最大規模のレンタカー会社である(甲3)。 かかる申立人は、「ENTERPRISE」又は「ENTERPRISE RENT-A-CAR」の商標など、合 計10件の日本商標登録を受けており(甲2の1ないし10)、現在は当該各登録商 標のほとんどについて、持株会社である申立人が保有し、具体的な本件サービスに ついては申立外子会社が担当している。 本件サービスは、申立人表示を使用して、米国におけるJD and Power Associates による北米レンタカー満足度調査では1995年依頼10年間で8回に渡り第1位 の評価を得ているだけでなく(甲3の1、甲5)、2014年には、TripAdvisor Americaが実施したTraveler’s Choiceのレンタカー部門にて第1位を獲得してい る(甲6)。 この他、申立人商標等表示を、各国拠点において看板等に表示するとともに、各 国での本件サービスのオンライン予約等の提供するウェブサイトでも表示しており (甲3の3ないし5、8の1ないし13、9の1、ないし7)、これらは、申立人に よる完全所有事業としての本件サービスの展開に加え、各国地元企業とのフランチ ャイズやパートナーシップといった契約関係を通じて、世界中の多数の国々に及ん でいる。登録者が在住する中国においても、申立人は2012年3月以来、中国最 大のレンタカーサービス企業とグローバル提携契約を締結し、本格的に進出し、米 国における申立人の本件サービスを提供するウェブサイトからは、中国におけるサ ービスについてもアクセスできるようになっている(甲10の9及び10)。 日本においては、現在、申立人による本件サービスの直接的な提供はないが、本 件サービスについては、海外旅行ガイド本として定評のある「地球の歩き方」シリ ーズにおいても紹介されるだけでなく(甲7の1ないし7)、日本人顧客を相手とす る日本でのインターネットサイトにおいて、米国他の国に赴く人々に利用しやすい レンタカーサービスとして紹介されている(甲7の8ないし14)。その結果、本件 サービスを利用した日本国籍の顧客数は、2011年からの3年間において、39 57件(売上約197万ドル)から5445件(売上約263万ドル)に増加して いるだけでなく(甲7の15)、日本でのインターネット・サービス・プロバイダ・ アドレスからの本件サービスのページへのアクセス数も、2006年以来、堅調に 推移しているのである(甲7の15及び16、9の17)。 以上のような申立人の状況を通じて、申立人商標等表示もまた、申立人による使 用地域の範囲や使用方法において世界的に広く使用されかつレンタカー事業の取引 者・需要者には認知されていることが認められる。かかる状況に鑑みると、申立人 商標等表示は、日本国内において申立人の商品等表示として使用されると共に、申 立人を中核とする本件サービスについての商品等表示としてその取引者・需要者に とって、広く世界的にも、また日本国内においても十分に認識されていると認めら れる。従って、少なくとも2014年6月3日における本件ドメイン名の登録時に は、申立人表示は既に本件サービスの取引者・需要者にとっては周知ないしは著名 となるに至っており、高い顧客吸引力を有していたと認められる。 よって、申立人には、申立人商標等表示の使用を継続する権利と正当な利益があ る。 (イ)同一又は混同を引き起こすほどの類似性 本件ドメイン名は「enterpriserentacar.jp」であるところ、「.jp」の部分はト ップレベルドメインであって国別コードの日本を意味し、使用主体が属する国を表 示するものに過ぎない。 次に、「enterpriserentacar」については、「rentacar」の部分に関し、一般的な レンタカー事業を意味するようにも見られなくはない。しかし、申立人「enterprise」 が申立外子会社を通じて展開する本件サービスにおけるレンタカー事業「エンター プライズレンタカー」そのものを「enterpriserentacar」という、申立人会社の商 号を含む形で示すものであるともいえるのであって、本件ドメイン名において第三 者の商標又は商品等表示との間で自他識別力を有する部分というのは「enterprise」 のみならず「enterpriserentcar」という結合した表示を含むと考えるべきである。 そうすると、本件ドメイン名の「enterpirserentacar」と、申立人が正当な利益 を有する申立人商標等表示のうち「ENTERPRISE」及び「ENTERPRISE RENT-A-CAR」、 あるいは「enterprise」(ロゴ化されたもの)のいずれとの間においても、外観、称 呼及び観念共に同一又は類似なことは明らかである。 かかる当該同一又は類似性に加え、上記申立人表示の周知・著名性を前提とすれ ば、本件サービスの取引者・需要者であれば、本件ドメイン名から、申立人と本件 登録者とを同一営業主体と混同を引き起こすか、又は両者間にいわゆる親会社、子 会社の関係若しくは系列関係等の何らかの営業上の関係があるものとの混同を引き 起こしかねない。 よって、本件ドメイン名は、申立人が正当な利益を有する商標及び申立人表示と 同一又は混同を引き起こすほどに類似と判断される。 (2) 権利または正当な利益のないこと 標題の点について、本来ならば登録者が、方針4条c(i)ないし(iii)に該当しない ことを反論すべきであるが、本件では答弁書の提出もなく、何らの反論もなされてい ない。 その一方で、申立人の主張において、方針4条a(ii)及びbのいずれかの要件に該 当するか否かということの裏返しの主張として、方針4条c(i)ないし(iii)に該当しな いといえる否かについての主張と立証が詳細になされているので、以下これらの点に ついて、事実を認定し、判断する。 ① 本件ドメイン名は、「セド」社提供による「ドメインパーキングプログラム」に おいて、クリック報酬型広告を通じて登録者が収入をえることができる対象となって いることが認められる(甲12の2、3及び5)。 いわゆるドメインパーキングとは、さまざまな目的を有するものであるが、取得 したものの利用するあてのないドメイン名を一時的に預かるサービスであり、預けら れたドメイン名にアクセスすると現在利用されていない旨や連絡先が単純に示され るという形で利用されることもある。そのため、ドメインパーキングにあるドメイン 名が供されたとしても、必ずしも当該ドメイン名の登録者において当該ドメイン名を 取得するにあたっての権利や正当な利益を直ちに否定すべき理由にはならない。しか しながら、ドメインパーキングというサービスにおいては、直ちに利用されていない ドメイン名を有効活用するとして、ドメイン名登録者にてクリック報酬型での広告に これを利用しうるような仕組みを予め組み込んで、単なるドメイン名の保有支援とい うことに止まらず、それをドメイン名登録者によって積極的に経済的利益を得るよう に利用させることを目的とすることも可能である(甲12の4)。 もちろん、本来自己の何等かの事業や個人の目的のために正当な立場にある者が、 当該ドメイン名を自ら使用しようとして取得したものの、暫くの間これを使用するこ とができないような場合に、単に保有するだけでなく、一定の経済的収益をあげると いう意味において、このクリック報酬型広告のサービスを利用するということもあり えなくはない。しかし、通常、このようなサービスによっては、クリック報酬型広告 自体からの広告収入を期待すべく、自己の事業や個人の目的とは何ら関係のない、他 人の著名なブランドを利用し、それに関わるインターネットユーザーを誘引すること を目的としてドメイン名を取得することを促進することの方が多くみられるところ であろう。 本件において、申立外セド(Sedo)社は(甲12の2)、「現在サイトが構築さ れていない等の理由などで使用されていないドメイン名にオンライン広告を表示さ せ、インターネットユーザーによってその広告が検出され、クリックされることによ って収入が生じる・・・魅力的な無料のサービスです。」、「1クリック毎の収入は、 数千から数ユーロと幅は大きく、設定されるキーワードによって異なります。プレミ アムドメインでは毎月何百ユーロの収益を得ることも可能です。その他多くのドメイ ンでも年間登録費分程度の収益を得ていただけます。」、「クリックによって生じた お客様の収入は、・・・銀行口座、若しくはPaypalの口座に送金いたします。」、 「多言語によるサポート」、「魅力的な高利益配分 Sedoはユーザーの皆様に高配分 率をお約束いたします。」などという宣伝文言にある如く(甲12の3及び5)、同 社提供の「ドメインパーキングプログラム」においては、そのプログラムの仕組みに おいて、当初からクリック報酬型広告によってドメイン名登録者が経済的収益を得る ことのみを強調しており、当該ドメイン名を自己の一定の事業や個人の目的などを使 用せずに保有しているだけであっても、かかる収益をあげうるという経済的成果を目 的とすることを積極的に宣伝している。 本件ドメイン名が、登録者によって前述のようなセド社のドメインパーキングプ ログラムに預けられているということからみると、登録者は、積極的に、自己とは関 係がない他人の著名なブランドや表示を含んだドメイン名を取得して、自らの経済的 収益を最大化しようとしているものと理解せざるをえない。そのため、このような「プ ログラム」に本件ドメイン名を提供した登録者には、少なくとも本件ドメイン名の取 得において、「申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことに より商業上の利得を得る意図」が看取される(方針4条c(iii)非該当性)。 ② 一方、登録者と全く同じ氏名と住所地を有する者が、日本における「.jp」におけ るその他のドメイン名登録を他の世界的に著名なブランドや事業に関連して取得し かつこれを同様のセド社の「ドメインパーキングプログラム」に売却対象として提示 していることも認められる(甲14の1ないし19)。しかも、これらの売却対象と なっている各ドメイン名が、いずれも2013年2月から2014年10月に渡り、 本件ドメイン名も含めて立て続けに登録されては、すぐに売却対象とされている。 かかる行動パターンからすれば、少なくとも本件ドメイン名の登録者においては、 「当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける 前に」、そういう売却対象として本件ドメイン名を取得することによって、周知・著 名な申立人商標等表示を取得していたものと認められ、このような行為においては何 ら「商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名ま たはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準備をして いたとき」にあたるとは認められない(方針4条c(i)非該当性)。 ③ 登録者が「ENTERPRISERENTACAR.JP」という名称で一般に知られているか否かにつ いては、登録者から何らの答弁・反論がなされていない。よって、申立人による当該 一般的認識はないとの主張に反する証拠もない以上、これを認めざるを得ない(方針 4条c(ii)非該当性)。 (3) 不正の目的での登録又は使用 標題の点について、登録者は答弁書を提出せず、何ら反論の答弁もしていない。そ こで、申立人の主張が方針4条a(iii)に該当するか否かに関し、申立人主張にかかる方 針4条b(i)及び(iv)について、以下の通り事実を認定し、判断する。 (ア)申立人商標等表示の周知・著名性 前述のとおり、少なくとも2014年6月3日における本件ドメイン名の登録時 には、申立人表示は既に本件サービスの取引者・需要者にとっては周知ないしは著 名となるに至っており、高い顧客吸引力を有していたと認められる(甲3、甲3の 2ないし5、甲9の1ないし7、甲7の1ないし15、甲10の9及び10)。 そのような申立人商標等表示の周知・著名性、それに伴う名声及び顧客吸引力の 大きさからすると、当該顧客吸引力を認識していたか、認識しえたものと認められ、 これに反する事実は認められない。 (イ)方針4条b(iv)についての該当性 前述のとおり、登録者は本件ドメイン名を、申立外セド社にて提供する「ドメイ ンパーキングプログラム」においてクリック報酬型広告に利用し、本件ドメイン名 にかかるURLにアクセスし表示された広告をインターネットユーザーがクリック することで、本件サービスとは何ら関係のない、他人のブランドや表示を含んだド メイン名を取得した登録者に広告収入が支払われるというスキームにおいて経済的 収益をあげていることが認められる(甲12、12の3及び5)。このような事実が ある以上、登録者による本件ドメイン名の取得は、申立人商標等表示の周知・著名 性による強い顧客吸引力を利用して、かかる広告収入を高額に得ることを目的とし たものとみざるをえない。 よって、申立外会社が、「商業上の利得を得る目的で」、「そのウェブサイトもし くはその他のオンラインロケーション」において、本件サービスについての「出所」 や「取引提携関係」についての「誤認混同を生ぜしめることを意図して、インター ネット上のユーザー」を、一定の「オンラインロケーションに誘引するために、当 該ドメイン名を使用しているとき」に該当するものと認められ、申立外会社におい ては本件ドメイン名の不正目的による使用があるものというべきである。 (ウ)方針4条b(i)についての該当性 一方、本件ドメイン名にかかるURLにアクセスすると、「このドメインを購入」、 「ドメインENTERPRISERENTACAR.JPは売り出し中です。」、「このページはセドのドメ インパーキングプログラムによってドメインオーナーに無料で提供されたもので す。」などと表示され、セド社の「ドメインパーキングプログラム」を通じて売却対 象とされていることが認められる(甲12、12の3及び5)。 また、登録者と全く同じ氏名と住所地を有する者が、日本における「.JP」にお けるその他のドメイン名登録を他の世界的に著名なブランドや事業に関連して取得 し、かつこれを同様のセド社の「ドメインパーキングプログラム」に売却対象とし て提示していることが認められる(甲14の1ないし19)。しかも、これらの売却 対象となっている各ドメイン名が、いずれも2013年2月から2014年10月 に渡り、本件ドメイン名も含めて立て続けに登録されては、すぐに売却対象とされ ている。 かかる行動パターンからすれば、少なくとも本件ドメイン名の登録者においては、 本件ドメイン名を自らの使用するために取得したものではなく、クリック報酬型広 告に供することで登録費用程度のコストを回収しつつ、実際には同広告からの高収 入や、それを基礎として本件ドメイン名の経済的価値を吊り上げ、高額にした上で 申立人又は第三者に売りつけるなどの目的で取得の上、不当な利益を得ることを意 図があったものとみざるをえない。 なお、申立人は、登録者がgTLDにおいてもドメイン名不法占拠行為(サイバ ースクワッター)であることを示すWIPOドメイン紛争裁定結果を複数引用し(甲 13の1ないし9)、登録者による本件ドメイン名の取得が不正の目的でなされたも のであるとするが、本件の登録者と同一の氏名を持ったものが各事件の当該登録者 として登場はしているものの、彼らの住所や連絡先メールアドレスは本件の登録者 とはいずれも同じではないため、本件の登録者と軽軽に断定することはできず、本 件との関連性を認めることはできない。 (エ)前述のような事実からすれば、本件登録者の本件ドメイン名は、不正の目的で登 録され、使用されていると判断される。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、本件登録者によって登録された本件ドメイン名 「ENTERPRISERENTACAR.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、本 件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、本件登録者のドメイン名が不 正の目的で登録され且つ使用されているものと裁定する。 よって、方針第4条(i)に従って、本件ドメイン名「ENTERPRISERENTACAR.JP」の登録を 取り消すべきものとし、主文のとおり裁定する。 2015年1月23日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 矢部 耕三 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1) 申立書受領日 2014年11月13日(電子メール)及び11月14日(書面) (2) 手数料受領日 2014年11月13日 申立手数料の受領確認 (3) ドメイン名及び登録者の確認 2014年11月14日 JPRSへ照会 2014年11月14日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登 録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4) 適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2014年11月 18日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認し た。 (5) 登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2014年11月19日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2014年12月18日 (6) 手続開始日 2014年11月19日 センターは、2014年11月19日に申立人及び登録者には電子メール及び郵 送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送され た。) (7) 答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2014年12月 19日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、 電子メールと郵送にて申立人及び登録者に送付した。 (但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送され た。) (8) パネリストの選任 2014年12月26日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2015年1月6日 パネリスト:弁護士 矢部 耕三 (9) 紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2014年12月26日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 (但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたり ません」として返送された。) 裁定予定日:2015年1月23日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2014年12月26日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2015年1月19日 申立人へ陳述・書類の追加提出要請書(1月22日期限) を送付(電子メール及び郵送) 2015年1月20日 申立人からの追加書類受領(電子メール) 2015年1月22日 申立人からの追加書類受領(郵送) 2015年1月23日 審理終了、裁定。